TOP > 気になるメディカルトピックス・コラム一覧 > 気になるメディカルトピックス・コラム詳細

気になるメディカルトピックス・コラム

2023/07/19

血管内皮機能評価は腎予後を予測するか?

Vascular Endothelial Function Is Associated with eGFR Slope in Female and Non-Smoking Male Individuals with Cardiovascular Risk Factors: A Pilot Study on the Predictive Value of FMD for Renal Prognosis.

Masuda S, Hara T, Yamagami H, Mitsui Y, Kurahashi K, Yoshida S, Harada T, Otoda T, Yuasa T, Nakamura S, Kuroda A, Endo I, Matsumoto T, Matsuhisa M, Abe M, Aihara KI.

                  J Atheroscler Thromb. 2023 Apr 19.doi: 10.5551/jat.63987. Online ahead of print.

【背景と目的】慢性腎臓病(CKD)は腎機能障害やアルブミン尿が軽度の場合でも、将来の末期腎不全の発症リスクだけでなく心血管疾患(CVD)の強い危険因子となることから、心腎連関について、近年注目が集まっている。血管内皮機能障害はCVDの進行に関与するだけでなく、アルブミン尿や腎障害の悪化要因でもある。上腕動脈のflow-mediated dilation(FMD)は非侵襲的な方法で測定される血管内皮機能指標であるが、FMDの低下で示された血管内皮機能障害は、アテローム性動脈硬化の発症における重要な初期障害であり、さらにはFMD値には性差があることはよく知られている。

これまでの研究でCKDと血管内皮機能との関連性が明らかにされているが、FMDが、心血管危険因子を持つ個人の将来のeGFR変化を予測できるかどうかや、そこに性差が存在するかについては、明らかでなかった。このような背景から、FMDによる腎機能予後予測能の評価と性差の影響を明らかにするため、我々は心血管リスクを有する患者におけるFMD値とeGFRの推移との相関を検証することを目的とした。

【方法】徳島大学病院およびJA徳島厚生連阿南医療センターにて、心血管リスクを有して通院中の成人男女で、FMDを測定した患者のうち、FMD検査後の24か月間でeGFR追跡が可能で、かつ脈波伝播速度(baPWV)も測定していた男女341人(男性176人、女性165人:平均年齢63.9±12.0歳)を対象として後方視的に評価した。身体計測値、一般血液生化学検査値、投与薬剤およびFMD値とFMD測定から24ヶ月間のeGFR値から回帰式で算出されたeGFR slopeの相関について統計解析を行い、p<0.05を有意とした。

【結果】  全体を対象とした単回帰解析では、FMD値はeGFR slopeと正の相関を示した(R2=0.0284, p=0.001)。次に男女別で解析したところ、女性群でFMD値とeGFR slopeには強い正の相関を認めた(R2=0.0606, p=0.001)が、男性群では相関が見られなかった。さらに、男性被検者を喫煙群・非喫煙群に分けて同様に解析を行った結果、非喫煙男性群においてFMD値とeGFR slopeは正の相関を示しらが(R2=0.0336, p=0.033)、喫煙男性群においては相関を示さなかった。最後に、交絡因子の調整を行うため、多変量解析を実施したところ、全体・非喫煙男性群及び女性群において、ベースラインFMD値はeGFR slopeの共通かつ独立した正の相関因子であった(t value:2.928, p<0.001, t value:2.031, p=0.045 and t value:3.393, p=0.001)。一方、全男性群と喫煙男性群においては相関を認めなかった。なお、baPWV値は性別や喫煙の有無関わらずeGFR slopeとの間に関連は見られなかった。

【結論】  以上から、心血管危険因子を有する患者において、血管内皮機能の評価により、女性および非喫煙男性における腎臓の予後予測が可能となると考えられた。従って、FMD測定により、CKD進展リスクを有する患者の層別化が可能となり、女性および非喫煙男性では血管内皮機能改善に向けた早期の包括的リスク管理が、CKD進展予防に有用である可能性が示された。一方、喫煙男性では、血管内皮機能指標を基にした腎予後予測が困難であり、事前リスク評価を可能にするためにも禁煙の推進が重要だと思われた。

(担当)粟飯原賢一

2024年度のお知らせ

2023年度のお知らせ

2022年度のお知らせ

2021年度のお知らせ

2020年度のお知らせ

2018年度のお知らせ

2017年度のお知らせ

2016年度のお知らせ

2015年度のお知らせ