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気になるメディカルトピックス・コラム

2017/08/03

運動しなくても運動している薬

AMPKという酵素があります。正式名称は、アデノシン一リン酸活性化蛋白リン酸化酵素(5’-adenosine monophosphate-activated protein kinase)と言います。今からちょうど25年前に発見されたのですが、筆者が糖尿病研究を始めた20年前に大変注目されていました。というのも、筋肉の収縮によるブドウ糖の取り込みにAMPKが関与していることが明らかになったからです。これは糖尿病の運動療法の分子機構を説明するものと理解されました。その後、肝臓に存在するAMPKが、既存の抗糖尿病薬であるメトホルミンの血糖値低下作用に関与していることも明らかになり数多くの研究がなされてきました。

 

最近、米国科学誌サイエンスにこのAMPKを直接活性化させる化合物に関する研究成果が発表されました(Science, Jul 13, 2017)。製薬企業メルク社の研究チームによる報告ですが、彼らが創薬した化合物(MK-8722)をマウスや猿に投与すると、骨格筋にブドウ糖が取り込まれ血糖値が低下しました。この作用はインスリンによるものではないことが確認されています。まさに運動による血糖値の低下が化合物の投与により達成されたことになります。運動しなくても運動していることになるわけです。しかし、成果の一方で心筋肥大を起こすことも報告されていました。ほぼ同時期に別の製薬企業(ファイザー社)も同じようなAMPKを活性化させる化合物が血糖値を低下させることを報告していますが、こちらは長期投与により薬効が失われる問題点が指摘されています(Cell Metabolism, 25, May 2, 2017)。

 

筆者自身の研究対象でもあったため創薬標的の発見から20有余年の時を経た一連の論文を感慨深く読みました。本薬剤の今後の研究開発の見通しは不明ですが、前稿のFGF21と同様に新しい機序の創薬の難しさを感じさせるものでした。

(担当:湯浅智之)

 

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